そうだと言ってよ-1-
「このまま朝寝でもしないか」
そりゃあ、いつもの軽口のように言ったさ。
二人きりの部屋。互いに程良く酒精に浸って、いつものように「高杉さんは面白いね」だとか、欲を言えばあの日のように「そうするかのう」とか言って欲しかったわけだ、僕はさ。
それをこの坂本君と来たら。坂本君と来たら、だ!
一瞬で酔いから覚めたような顔をして、居心地の悪い笑みを浮かべて、消え入りそうなほどに寂しい声で、「……高杉さんと朝寝なんて、僕には勿体無いよ」とか言いやがったのだ!
豊富に揃えた二の句なんか一瞬で忘れた。盃が手から滑り落ちて、そんなものには目敏く気付いて手を伸ばそうとする坂本君の腕を上から押さえつけるように掴んだ。
「じゃあ僕よりつまらない奴とだったら良いって言うのか!?」
張り上げた声の後ろで、盃が呆れたように床に転がる。これでも僕は他人との会話で声を荒らげることなど滅多に無い男なのだが、坂本君は腹立つことにそんなことにも慣れ過ぎているんだろう。
「え…っと、それは、その、考えたことが無いけど……」
たどたどしく紡がれる言葉には純粋に困惑だけが宿っている。無いけど、なんだよ。
考えてみるとかそんな面白くないことはやめてくれよ。想像でも許せないぞ。
とかなんとか心の中で吐き捨てたところではたと気付いた。それは坂本君も同じだったようで素知らぬ頬にさっと鮮やかな色がのぼっていく。
「僕との朝寝は、想像出来ないわけじゃないんだな。坂本君?」
「う、ん……」
ここで馬鹿正直に頷いてしまう坂本君の、想像している僕とやらを超える必要が僕には常にあるわけで。
そうして僕が君に教えられることもまだまだ色々とあるんだろう。
だから手始めに試してみようじゃないか。
僕が此処に来たからには、いつまでも食えない君であってもらっても困るというやつさ。
「…だったら君自身で確かめてみるべきだと、僕は思うが」
今や耳朶まで染め上げる薄紅や未だに振り解かれないままの手に、淡い期待で終われるわけがないだろう。君がなんと言おうとも。「加減は出来そうに無いけど、いいね?」
申し訳程度に宣告すれば、坂本君は「本当、高杉さんには敵わないな」といくらか吹っ切れたように、それでいて随分と穏やかに笑うので、僕はまずこれまで何度思ったか分からない「そういうとこだぞ、坂本君」を目の前の薄い唇に押し込んでやったのだった。